最近、PCT国際出願制度についてお客様に説明する機会がありました。
PCT国際出願(特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に基づく国際出願)とは、ひとつの出願願書を条約に従って提出することによって、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果を与える出願制度です。(出典:特許庁HP)
外国で事業展開されるお客様で、以下のケースでは特に有用ですので、情報展開致します。
1.発明の事業展開する国が不明の場合
特許制度というのは各国毎に存在するため、外国において事業を展開される場合は、事業展開される国毎に特許出願することが原則となります。例えば米国で製品を売り、米国で製品の模倣を防ぐためには米国でも特許出願が必要となります。ところが、どこの国に事業展開するかわかなら状況もあります。また、1カ国ではなく多数の国に出願する可能性もあるかと思います。PCT国際出願では、PCT加盟国であるすべての国に同時に出願したことと同じ効果があり、優先日(基礎とした出願の出願日)から30ヵ月以内(国によって多少違います)に、通常の外国出願に準じた手続きを行うことができます。なお、PCT国際出願ではなくパリ条約の優先権を活用して外国出願することもでき、この場合は優先日から12カ月以内に外国で手続きを行う必要があります。
すなわち、通常であれば日本の出願日から12カ月以内の外国出願の判断が必要となりますが、PCT出願では外国出願の判断を概ね18カ月分遅らせることができます。この18カ月を活用して、発明がどの国に事業展開されるかを判断することができます。
2.早期に投資判断をしたい場合
新規事業や新開発製品などで、そこの国の市場でどの程度独占できるかは投資判断として大切になります。そこで、新規事業や新開発製品に関する発明の特許性を、投資判断材料の一つとしたいケースも良く聞きます。PCT国際出願では国際調査機関というところから国際調査報告(以下サーチレポート)という先行技術調査結果と特許性に関する見解が出されます。サーチレポートは出願した内容について新規性・進歩性の判断がある程度なされるため、各国に出願する前に、その判断をある程度参考にすることができます。また、PCT国際出願経由で各国に出願した場合は、このサーチレポートの結果が一応は考慮されます(国によってはサーチレポートと異なる拒絶理由が出ることもあります)。このため、外国で権利化できるかや、日本の出願に対しても審査請求するか否かなどの判断材料として活用することが可能です。私の経験上では、日本国特許庁がサーチレポートとして肯定的な見解がなされた場合は、日本の審査においても肯定的(特許されやすい)と考えてよいと思います。また、PPH(審査ハイウェー)やPCT-PPH、修正実体審査という制度を活用できる国では、日本で登録となった権利範囲とほぼ同じような権利範囲にできる可能性もあります。従って、投資判断の材料としてもサーチレポートは有効であると思います。また、サーチレポートは国際出願日から概ね4か月程度で出されますのでスピーディーな投資判断に活用できます。
3.PCT国際出願のデメリット
PCT国際出願は、パリ条約を活用した外国出願に比べて、PCT国際出願をする分の費用が余分にかかります。そのため、出願する国が既に決まっている場合で、米国のみや中国のみと言ったケースでは、PCT出願は費用面で余計にかかってしまうため、デメリットとなります。なお、小規模事業者では手数料の減額もありますので、こちらを参考にしてください。
また、(特許協力条約(PCT:Patent Cooperation Treaty)に加盟していない国もあり、特に台湾はPCTには加盟してませんので注意が必要です。
4.PCT国際出願の戦略活用
PCT出願はメリット、デメリット双方ありますが、私の出願戦略としての考えでは、事業性判断が出来ていないときに、第三者判断と時間をお金で買うというイメージでおります。外国出願は翻訳費用など合わせて1カ国70万円から100万円の費用が発生するため、例えば5か国出願すると500万円程度の費用が必要になり、大変高額な投資となります。通常12カ月のところを18カ月間延長して投資判断の猶予を貰えれば、事業展開の見極めもつき、より効率的な判断が可能となるはずです。すなわちこの18カ月の猶予を30万円から40万円程度(小規模事業主であれば20万円程度)かけて買うということになります。予め事業展開が決まっていれば、このお金は必要ありません。また、サーチレポートもいわゆる審査官に準じた判断がでるわけですから、投資前に判断する材料としては大きな意味があると考えております。要は、事業がどうなるかわからないという時は、PCT国際出願を活用するというのが良いと考えております。従って、グローバルな事業展開をお考えの、スタートアップや、新規事業を検討されているお客様に対してこの制度をよくお勧めしております。
コメントをお書きください